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【Festival】ヴィオラの祭典!ロッテルダム国際ヴィオラ・コングレス現地レポート

Hofplein劇場の大ホールはカラフルな内装が特徴的

第45回国際ヴィオラ・コングレス(International Viola Congress Rotterdam 2018)現地レポート

オランダ初の国際ヴィオラコングレスが2018年11月20日から24日にかけて、ロッテルダムのHofpleinホールを主会場に開催されました。

ヴィオラにまつわる演奏会はもちろん、マスタークラスやレクチャー、ワークショップや演劇に至るまで、愛すべきヴィオラ・ワールドをあらゆる角度から味わえるディープなイベントでした。

ちなみに筆者はヴィオリストではありませんが、ブラームスのヴィオラソナタが大好きな『ヴィオラファン』のひとりです。

オランダ初の国際ヴィオラコングレスの開催場所として選ばれたのは、戦後に築かれた現代的な街並みで知られるオランダ南部の都市ロッテルダムでした。

メイン会場となった劇場、Hofplein。ヴィオラコングレスののぼりが入口脇に建っています

アットホームな雰囲気のコングレス

無機質なオフィスビルの一角にたたずむHofpleinの劇場に入った途端、ソファでくつろぐ人々、そして窓際に吊り下げられた植物が目に飛び込んできました。なんとアットホームな雰囲気なのでしょうか・・・。

ロビーの突き当たりにはカフェがあり、楽器の展示スペースや職人の作業台に並ぶヴィオラとカフェの喫茶スペースが。それらすべてが仕切りなく、緩やかにつながっています。

ヴィオラらしく和やかなまったりとした空気が漂っていて、ほっとしますね・・・!

50年の歴史を持つ国際ヴィオラ協会の力強いサポート

さて、国際ヴィオラ協会は、1965年設立の歴史ある組織で、ヨーロッパに限らずアメリカ、オーストラリアなど世界中のヴィオリストをつなぎ交流を活性化する組織として、ヴィオラ界において重要な役割を果たしています。

オランダのヴィオラ協会は2012年に設立されたばかりなのですが、創立時から熱心なボランティアが集い、設立6年目にあたる今年、コングレスの開催にこぎつけました。

今回は『Exploring New Ways to Perform』、つまり「新しい演奏方法を模索すること」というテーマが掲げられました。作曲家や宇宙飛行士も巻き込んで、実験的なコンサートやレクチャーも数多く企画されました。オランダらしい、奇抜なものにも喜んで挑戦する自由な空気が感じられます。

ヴィオリスト、楽器製作者、作曲家、音楽評論家や教師、アマチュアの愛好家が40か国から大集合。会場は、静かながらも情熱に溢れる、いかにもヴィオラらしい独特の盛り上がりを見せていました。

Hofpleinロビーの楽器製作者や楽譜出版社などのブースには、ヴィオラがずらり

演奏者にも聴衆にも楽しいプログラム

会期中は朝8時から深夜まで、ヴィオラにまつわる様々なイベントが催されました。同じ時間帯に複数のイベントが開催されることもしばしば。

朝一番にヴィオラ・オーケストラの練習が行われ、9時からは即興ワークショップ、バッハ演奏のマスタークラス、心理学とヴィオラ演奏に関するレクチャーと盲目のヴィオリストが音楽を習得した方法に関するレクチャーが4か所で同時に開催。10時からも脳科学と楽器練習についてのレクチャーの他に連続ワークショップとマスタークラスなどが次々に開かれました。それぞれのテーマの深さ、そして切り口の斬新さに驚かされます。

コングレスのプログラムに参加するには有料のチケットが必要です。通し券、1日券、半日券があり、それぞれ一般・学生・ヴィオラ協会会員で価格が異なりました。
珍しいのは開催間際になるほど、それぞれのチケット価格が段階的に上がっていく仕組みになっていたことです。つまり、早めに買えば早めに買うほどお買い得。ですから、開催の1年近く前からオンラインに告知が出ていたことを覚えています。

なお、別会場で開かれるキム・カシュカシアンなどの名だたる奏者が出演するコンサートはコングレス入場とは別料金で、別のチケットが必要でした。一般の音楽愛好家は、こちらの特別コンサートだけチケットを買って参加するという人が多かったかもしれません。

在オランダの著名な音楽ジャーナリストであるヘザー・クルツバウアーさんによる「ヴィオラ界のエコ・システムにおいて、どうすれば足跡を残せるか」という若いヴィオリストのためのキャリアプランについてのレクチャーなどもありました。

マスタークラスやコンサートに参加

筆者は、開催4日目の午後からコングレスのプログラムに参加しました。実際に拝見したものは以下のプログラムです。

  • 12:50- 今井信子さんのリサイタル・マスタークラス
  • 14:00- トークショー「新しいレパートリーの探求」
  • 14:45- コンサート「ヴィオラのためのバラード」
  • 17:00- 音楽劇「ヴィオラマニア」

今井信子さんが登場し、作曲家本人とのやりとりについてのエピソードを交えて披露した武満徹「鳥は星形の庭に降りる」の演奏は、心に沁みる素晴らしいものでした。

マスタークラスの会場は、教会を改装したらしいモダンな礼拝堂のような横長の空間を持つホール。

スペイン人と中国人の学生がそれぞれ30分程度マスタークラスを受けました。聴講に本当にたくさんの人が集まり、会場はすぐに満席になり、立ち見が出るほど。

ジェスチャーを交えて、英語で優しくレクチャーした今井信子さん。

モーツァルトを弾いたスペイン人の女子学生には、「モーツァルトの愉しい感じを大切に。あなたはこの音楽の楽しさを感じてはいるので、それをもっと外に出して表現するように努めてみて」というアドバイスを与えた今井さん。その一言がきっかけになって、学生の音楽性が花開く瞬間を目にして、聴衆のあいだには感動が広がりました。

一方で、高い技術を要する現代曲のソロを取り上げた中国人の男子学生には、「身体を固くしないで、もっと柔軟に」という助言が与えられました。

ロビーの中央に設けられた特設ステージで突然始まったトークイベント

切り口を変えてヴィオラの魅力に迫る

「どうやって隠された原石と言える新しいレパートリーを見つけるのか」というテーマで開かれたカジュアルなトークショーには、研究者、ジャーナリスト、ヴィオリストが色々なアイディアを聴衆とシェアする場になりました。

クラシックの曲に関しては、古本屋で楽譜を探すことや、『地元』の図書館はおすすめという声が上がりました。現代曲については、ヴィオラコンクールが委嘱する新作の課題曲に注目すること、ニューヨークタイムズなどの音楽欄のある新聞の記事に書かれている新しい作曲家を見つけたらすぐに調べてみることから、作曲家と友達になってヴィオラという楽器について知ってもらい、曲を書いてもらうというものまで。

のちに調べてみると、アメリカヴィオラ協会のウェブサイトには、ヴィオリストのための推薦図書のコーナーがありました。
http://www.americanviolasociety.org/Resources/Books.php

「15歳の恋」といった小説から社会的なメッセージを含むものまで、ヴィオリストが登場する本がずらりと並んでいます。ヴィオラという楽器がどのような役回りを果たしているのかが気になりますね。読んでみなければ…!

ヒンデミットの書いたシュールな劇を演じきった勇気あるヴィオリストたちに拍手を!

ヴィオラが主役の音楽劇

夕方には、バーミンガムの学生によって、Hofpleinシアターの大ホールでヒンデミットの書いた戯曲『Der Bratschenfimmel』が上演されました。

上演には1時間半弱かかり、かなり長く感じれらました。というのも、舞台芸術も非常に質素なもの(椅子と机を動かす以外は、スクリーンに写真を出して舞台美術として使用)で、音楽は役者自らが奏でるヴィオラの生演奏のみだったのです。

しかし、本当に楽器が弾けてしまう役者さんばかりなので、音楽について語る言葉も実際の演奏も、ちゃんと現実味があって惹きつけられます。

2017年のマラソンに参加して一躍有名になった、知る人ぞ知る『ヴィオラマン』ことAlistair Rutherfordさんが友情出演していて、衝撃的でした。
他にも、『トイレの便座』役(?)の手作り感あふれる衣装を身に纏った「ヴィオリストの妻」という役が一番印象に残りました。台詞は少ないけれど度胸の要る役回りだったのではと思います。

衝撃的なラストシーンは、横溝正史『犬神家の一族』さながら。便器から足だけ突き出て流れ残った主人公の狂人ヴィオリストを発見した人々のうち、ひとりの女性がしらっとノブをあげ、流し切って終わり…というものでした。

終演後、観客席には押し殺したような笑いが広がりました。

上演する勇気を持ち、みごとにやり遂げた王立バーミンガム音楽院のヴィオラ・クラスの学生さんたちに大拍手です。この珍しい経験をヴィオラ演奏に活かして(?)、活躍することを心から祈っています!

脚本についていえば……ヒンデミットは作曲や演奏の才能はあっても、劇作家としては売れなかっただろうなぁと想像されるような、演劇作品としては冗長といわざるを得ない作品だと思いました。

今後のオランダヴィオラ界にも注目

オランダヴィオラ協会の運営委員長であるクリストファー・スカウグさんは、ヨーロッパ・スペース・エージェンシーに勤める在蘭ノルウェイ人であり、アマチュアヴィオリストでもある熱心なヴィオラ愛好家です。そのスカウグさんの娘さんも、優秀な若手ヴィオリストとして活躍しています。

会場で活躍する多くのボランティアスタッフの献身が功を成し、ヴィオラ・コングレスは盛況のうちに幕を閉じました。

運営体制を見ていると、オランダのヴィオラ界の素晴らしいところは、ボランティアの熱意と実行力の高さ、多くの学生を支える各方面の実力者たちの力強いサポート、そして定評あるのびのびした教育環境で育つ才能ある音楽家たちの存在だと感じました。

今後の活動からも目が離せません。

◆オランダヴィオラ協会の公式ウェブサイト

text and photo / Mako Yasuda

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