1988年フランス・パリ出身のフランス系ベルギー人のチェロ奏者、カミーユ・トマ(Camille Thomas)。
国際的に目覚ましい活躍をみせる彼女は、使用楽器のストラディヴァリウス・チェロ「フォイアマン」に関係が深いショパン・プログラムに取り組んでいます。
| ショパン・ツアーのプログラム
オランダ・ハーレムのフィルハーモニーホールで、去る2月にチェロのカミーユ・トマ、ピアノのJulien Brocalのリサイタル・コンサートが開催されました。ショパン・プログラムツアーの一環です。
客層はいつもより少し若い人が多く、筆者の隣にはピアノを習っているという7歳の女の子とお母さんが。日曜日のマチネだけあって、和やかな空気が流れていました。
プログラムは以下の通りです。
ショパン プレリュード第4番 op.28(カミーユ・トマ編曲)
ショパン エチュード第7番 op.25(アレクサンダー・グラズノフ編曲)
ショパン マズルカ第2番 op.68(カミーユ・トマ編曲)
ショパン チェロとピアノのためのソナタ op.65
休憩
ショパン ノクターン(ミッシャ・マイスキー編曲)
ショパン ワルツ第3番 op.24(オーギュスト・フランコーム編曲)
フランコーム ノクターン第1番 op.14
ショパン プレリュード第15番 op.28(オーギュスト・フランコーム編曲)
フランコーム ロシアの歌による変奏曲 op.32
ショパンをメインに据えながら、ショパンの親友だったフランス人チェリストのオーギュスト・フランコーム(1808-1884、フランショームとの表記もあり)の作品で織りなしたプログラムでした。
| ショパンの親友ゆかりのチェロ
現在カミーユ・トマが使用しているのは、1730年製ストラディヴァリのチェロ、通称『フォイアマン』または『デ・ムンク』。
2019年にトマが日本音楽財団から貸与された楽器で、その名の通り、過去にエマニュエル・フォイアマンや、ショパンの親友だったチェリストのオーギュスト・フランコームによって1869年まで所有されていました。
2019年9月から1年間の予定だった『フォイアマン』の貸与は、2023年の現在も続いているようですね。「女性奏者のために作られたのでは」とも言われている、すらりとした小ぶりのストラディヴァリウスが、トマという演奏家と幸せな関係を築いていることが傍から見ていても明白だからでしょう。室内楽には音量も十分ですし、感情の機微をえがく繊細な表現が引き立つ楽器だと個人的に感じました。
さて、この『フォイアマン』チェロを1869年まで所有していたのが、ショパンの親友でチェリストだったフランコームでした。彼がいかに技術的に自在なチェロ奏者だったのかは、フランコームが作曲した『チェロのための12のカプリース』を聴けば想像できます。
フランコームはショパンからチェロ・ソナタを献呈され、1849年にショパンのピアノとフランコームのチェロで、パリで同ソナタを初演しています。それがショパンの最後の公開コンサートだといわれています。
なお、フランコームは1842年に同じストラディヴァリの別のチェロ「デュポール」を手に入れたことが記録に残されています。フランコームはどちらのチェロをどのような場面で使用していたか気になるところです。
| アルヴォ・パートのアンコール曲でも魅了
リサイタルのアンコール1曲目として演奏されたのは、フランコームと同様にチェリストだったポッパーの「ハンガリー狂詩曲」。民俗音楽らしいたっぷりとした歌と、鮮やかに切り込んでいく技術の高さが光っていました。
アンコール2曲目には、アルヴォ・ペルトの「我らが父」という作品をカミーユ・トマ自身がチェロ・ピアノ版に編曲したものを披露。しっとりとした深みのある演奏でした。
こちらの曲はアルヴォ・パート本人に編曲の許可を請って『No』と言われたものの、実際にチェロとピアノで演奏した録音を送ったところ、『いいねぇ(Oh, that is nice)』と返ってきたのだというトマによる編曲作品です。トマさん、仕上がりの素晴らしさに確信があったのでしょうね。
透明感とともに、質感と重さが感じられるメロディが印象的な作品です。
演奏はもちろん、プログラムの構成力が光っています。ぜひまた聞きたいと思わせる素晴らしいリサイタル。演奏会の最後に「実はショパンとともにあったチェロなのです」と紹介し、聴衆の心をぐっと掴みました。
| ショパンとフランコームの魅力を深掘りする新譜
トマの演奏するショパンやフランコームは、2023年3月にリリースされた新譜「The Chopin Project: The Franchomme Legacy(ショパン・プロジェクト:フランコームから受け継ぐもの)」で聴くことができます。しかもチェロアンサンブル版です!
一番の聴きどころは、CDの3曲目におさめられているショパン作曲・フランコーム編曲の『24の前奏曲第15番 雨だれ』ではないでしょうか。クロンベルク・アカデミーなどで指導にあたっている名手フランス・ヘルメルソンやウォルフガング・シュミット、若手のハン・ジェミン (Jaemin Han)とトマという凄腕メンバーのチェロ・クァルテットで聞かせます。
ちなみにジェミンは、2021年にルーマニアのエネスク国際コンクールで15歳で最年少の優勝を飾り、16歳でマネージメントと契約したという天才チェリストです。
演奏はもちろんプロデュース力も含めて、目が離せないチェリストのカミーユ・トマ。これからの活躍も楽しみです。
photo&text/ Mako Yasuda
カテゴリー:Uncategorized
